電子書籍の罠

電子書籍は、なかなか便利です。なにしろ重い本を持ち歩かなくていいし、一台の機器に何冊も入れておけるので場所もとりません。厚くて重いハードカバーの長編小説もらくらく端末一台に収まります。端末は PC や PSP のようなゲーム機、Reader のような専用機、SH06D みたいなスマートフォン、いろいろ読む方法もあります。

けど、一番厄介なのは、著作権管理。違法コピーされないように、というのを最優先事項に掲げ、そのためにあらゆる犠牲を払っている感じがします。その昔は音楽ファイルで「チェックイン・チェックアウト」というまったく不便で迷惑な操作方法が面倒で、ソニーの音楽プレイ屋が全く売れなかったのを思い出します。

電子書籍の場合、アカウントを申請し、そのアカウントで認証された機器(機器登録されたもの)でのみ、閲覧できます。たとえば、PSP でアカウントを作ったら「この PSP を登録する」とすると、その PSP でのみ、その書籍が読めます。ファイルだけ、ほかの PSP にコピーしても読めません。

そうなると、PSP をおとしたらどうなるの?壊れたら?という懸念があるでしょうが、このあたりは一応、同じアカウントで古い PSP を削除し、新しい PSP を登録すれば、再度ダウンロードできるので安心といえば安心です。もしリアル書籍なら、水たまりや川に落としたり、なくしたら、それでおしまいですが、電子書籍の場合、新しい機器で登録のやり直しをすれば、費用なしでまた手に入るのはメリットです。

ところが、これ、全部「チョサッケン管理」されているため、コピーを自分で取っておくことはできませんし、そもそもそういう「登録されている危機」の管理は、コンテンツ販売の会社が行っている関係で「閉店の恐怖」があるのです。


例えば、紙媒体の本であれば、買った本屋さんがつぶれようと、出版社がつぶれようと全く関係ありません。未来永劫とっておくことができます。お金を払って手に入れたものが、自分の自由になるのは当たり前のことですね。

でも、電子書籍の場合は違います。迷惑な、チョサッケン管理により、権利団体が承認しない限り再生やダウンロードできないわけです。そのため、電子書籍を購入したオンラインストアが閉店(サービス終了)したら、もう二度とダウンロードできないし、下手したら、表示もできなくなります。

たとえ出版社が健在でも、販売した管理は全部オンラインストアで行っています。たとえば、集英社の漫画をユイストアで買った場合、機器の登録の認証や、ダウンロードの可否、アカウントの管理は全部ユイストアが行っています。

そのため、修正者が健在でも、ユイストアが倒産したら、認証のしようがなくなるため、ダウンロードはもちろんできませんし、定期的に行われるアカウントのチェックが行えないため種類によっては「サーバと通信できません。購入管理情報の確認が取れないため、コンテンツの表示ができません」と出て、もう見られなくなるようなシステムのところもあります。

たとえ定期的な購入管理情報のチェックがなくても、端末が壊れたり、新機種に買い替えたらもう見ることができなくなるわけです。これをいくら出版社である集英社に泣きついても面倒間見てくれません。オンラインストアが「倒産」しなくても「もうからないからもうやーめた」と放り出しても、同じことです。今の時代、簡単にサービスを手掛けて、簡単に放り出す企業が多いですから、そんなストアから買ったら目も当てられません。

それじゃ、ソニーみたいな大手なら安心よね?なんて思ったりしますが…これがそうでもないことが、PSP で実証されてしましました。SONYPSP における漫画コンテンツの配信を終了したのです。オンラインストア自体は残っていますが、漫画に関しては新規販売を停止、すでに購入済みの漫画も、再ダウンロードは、いつまで、とデッドラインを設けてしまったわけです。つまり、これ以降に PSP を買い替えたり、壊れたりしたら、もう二度と、その漫画は読めないのです。

ソニーは大企業で、倒産したわけでも何でもありませんし、ゲームや動画などのオンラインコンテンツ販売自体は継続しています。しかし、漫画だけは(理由は知りませんが)「やーめた」と放り投げてしまったため、もうダウロードできず、すでにダウンロード済みの漫画が、せめて消えないように祈るばかり。PSP 本体を買い替えたら見られなくなりますからもし購入した膨大な漫画を見たければ、PSP が壊れないように祈るしかありません。

せっかくお金を出した自分の買った漫画なのに、そうやって「論理的な海の藻屑」になってしまうのが、電子書籍の怖いところです。くだらないチョサッケン縛りさえなければ、普通にコピーしてバックアップをとっておけるし、違う端末で読めるのですが、そういう変な縛りをしているがために、認証が必要になり、認証を提供していたオンラインストアが消滅したら「おしまい」になってしまうわけです。

確かに便利は便利ですが、こういう問題があるので電子書籍は怖くて使えません。実際には、そんなことめったにないでしょ、なんて思っていたわけですが、そのまさかが PSP で現実に、しかもこんな早い時期に味わうことになるとは思ってもいませんでした。私が身銭を切って買った漫画は、この PSP が経年劣化で壊れたら、すべてさようなら、になります。漫画が読みたかったら、後生大事にこの PSP をとっておかないといけません。

しかし PSP はまだマシな方。先述のように、端末によっては、1 か月に 1 回、場合によっては毎回、オンラインでアカウントが有効かどうかチェックし、有効ではないと表示できなくなるものがあるのですから、ストアがつぶれたら、即、読めなくなるわけです。

手軽で気軽な電子書籍ですが、こういう問題があると、普及するべきだとは思いません。ストアがつぶれたら、また新しく買い直し、と考えると馬鹿らしいですが、出版社や「チョサッケン所有者」にとっては、おいしい話です。こうして、どんどんチョッサッケン保有者に有利な世の中になり、利用者はどんどん面倒になります。これも、反発しない消費者が悪いのでしょうが…。

世の中、漫画も音楽も、じっくり鑑賞せず、流行の時一時的に使い捨てにできればいい、という軽率な人も多いでしょうから、一生読める必要はないのかもしれませんね。私のように、せっかく買ったのだから、一生楽しみたい、後からまたみてみたくなったり聴いてみたくなる、なんていう考えの人は、少ないのかもしれませんね。

そう考えると、この「使い捨てコンテンツ」というシステムは、今の時代に合っているのかもしれません。しかし、どうでしょう。チョサッケン所有者の皆さん。お金は確かに入るでしょうが、自分の作品がそういう感じで粗末に扱われていいんでしょうか。一生大事にとっておきたい、という読者は、もう不要でしょうか。いつか、チョサッケン諸州者自体が、使い捨てにされていることに気が付くのは、いつの日でしょうか。

チョサッケン保護、チョサッケン保護、そればかり優先して、システム自体をどんどん不便にするから、どんどんユーザは離れるし、面倒に感じるから、違法コピーも絶えない。正常な利用者にまで迷惑をかけるチョサッケン保護は、何とかしないといけません。CD が売れないのは違法コピーのせいだ、なんて言って責任転嫁している場合じゃないですよ。