かんちがいくん

 一部の末端のスタッフから不満が上がっていて、なんでも 「年俸制で残業代が出ないのはおかしい。払え!」 みたいなお話です。遅くまで残業しても、休日出てきても 1 円ももらえないのはおかしいんじゃないか、というお話なわけですが。
 これを見て私はとてもがっかりました。別に、私がお金を払うわけじゃありませんし、バジェットがあれば払うおうと払うまいと、それは組織全体で勝手に決めてくれればよいお話で、私の年俸が減るわけでもなく、あまり興味がありません。ただ、こういう思想を持っている人たちは、日本でもよく見られる 「約款に書いてあることを平気で "聞いてない" "知らなかった" "教えてくれなかった" というダメ(not褒め)な人たち」 を思い出して、うちの職員もそんなにレベルの低い人がいるのかとがっかりしたわけです。
 残業という概念があるかどうか、遅くまでお仕事してもお金が追加でもらえるのかどうか、そういうのはエントリー時、もしくは、サインをするときにしっかりわかっていたはずです。日本の民間企業への就職ではあまりないのかもしれませんが、私の職場では採用されるとき・するときの報酬なんかの待遇のお話はそれなりにたっぷり交渉されて双方にとって印象深いものですから、忘れてた、知らなかった、興味なかった、ということはまずないといえるでしょう。
 なのにもかかわらず、後から文句を言うのは理解ができません。もちろん、夜間のつらいお仕事が多いから、報酬を来年は多くしてほしいとか、報酬の体系を一部歩合制(残業手当)にしてほしいとか、労働条件を交渉、提案するのは問題がありません。しかし、それを 「出ないのがおかしい」「よこせー」 みたいな感じで不満として団結しているのは、ベクタの方向が間違ってるといわざるを得ないわけです。一つは、採用時に知らされていたことであること、もう一つは、不満であれば毎年の評価のタイミングで報酬の交渉をすればよいことなわけですから、2 つの間違いをしてるわけです。
 このお話は、例えば、空港や軍の基地のそばに自分から引っ越してきておいて 「騒音がうるさい」 とクレームを言ったり 「空港や基地は出て行け〜」 と運動に参加するのと同じくらい、意味不明です。基地や空港があるのがわかっていて自分から接近してきているのに、相手に対して文句を言うとは、身勝手というか、子供適しそうにも限度があると思います。
 同じように、自分で駅からある程度遠いところを借りておきながら自転車通勤で駅前に自転車を放置するお話も、何度か書いたとおりです。自転車を駅前に勝手に置く権利がないことは大人なら当然知っているわけですし、歩くと遠くて大変なのも、家を借りるなり買ったりした時点で知ってるわけです。それなのに 「自転車がないと駅まで通えないんだからしょうがないでしょ」 という言い訳を平然とする大人がいるわけで、とてもがっかりさせられます。
 ただこれらは、あくまで 「外の世界のお話」 というか、いうなれば、殺人や盗難を平気でする人たちと同じように、自分とは縁がない違う世界の 「レベルの低い世界の人たち」 として、ある意味一歩はなれて観測されていたものだったわけです。ところが、残業のお話について、自分たちの組織の職員が、一部とはいえそういうのと同程度な低レベルのお話をしてくるというのは、それはそれでショックなわけです。
 これは、何らかの理由で採用時のレベルが低下したことを示しているのかもしれません。私の職場の採用は大変厳しいことでそれなりに有名だったりしますが、有能な技術者の方が減ったり、もしかしたらよそに流れたりしていて応募者の平均クオリティが下がったのかもしれません。その結果、採用が甘くなったのでしょうか。悲しい限りです。単なる技術力だけではなく、こういう 「大人としてのまともな思考ができるかどうか」 というのも採用時の重要なファクタになっているはずですから、この手の人たちが採用されることは本来ないはず、あっても、採用のミスとして非常にレアケースのはずです。
 う〜ん…。私の職場では、自分自身と、職場に誇りを持って働くことが、モチベーションの重要な要因でもあったりするわけです。俗っぽく言えば、ブランドですが、自分たちがその世界で一番の一流のブランドを作り上げているという意識があるからこそ、本領を発揮できるのではないでしょうか。そこで、こういうガッカリがあると、そのモチベーションの低下は組織全体に響くわけです。
 そういう意味でも、ダメ要素の採用をするくらいなら、人手不足で研究を流して技術力が一時的に低下したほうがましというものです。そういった文化レベルが低下してしまったら、それを復旧するのは、単に低下した技術力を補うのとは比べ物にならないほどの時間と労力がかかり、それどころか復旧できるかも怪しくなります。技術力がナンバーワンの組織の持ち味と思いがちですが、実は、うちはこの文化こそが、ナンバーワンの財産だと思っています。